うだるような暑さの中にも、朝晩はふと秋の気配を感じるころとなってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。TAILORS WORLD編集部の山本佑です。いつも当ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
目次
スーツやジャケットというと、どうしても「どんな表生地を使うか」に話が集まりがちです。もちろん表生地は主役ですが、実のところ、一着の仕立ての良し悪しや着心地の大半を決めているのは、表からは決して見えない「副資材」たちだということを、皆様はご存じでしょうか。芯地、裏地、肩パッド、前カン……。名前は聞いたことがあっても、「それが一体何のためにあるのか」となると、意外と知られていないものです。
そこで今回は、あえて「今さら聞けない?」をテーマに掲げ、ジャケット・ベスト・スラックスに使われる“最低限これだけは押さえておきたい”副資材を、一挙にご紹介します。まさに永久保存版のつもりで、じっくりとまとめました!! ぜひブックマークして、折に触れて見返していただければ幸いです。
そもそも副資材とは
表生地以外に使われる材料の総称です。縫い糸、芯地、裏地、ボタン、ファスナー、肩パッド、前カン——こうした一つひとつが、製品を形づくり、機能させ、長く着られるように支えています。まさに「縁の下の力持ち」。まずは、ジャケットの内部にどんな副資材が隠れているのか、全体像からご覧ください。
なお、すべての副資材の基本となるのが「縫い糸」です。表からはほとんど意識されませんが、生地を縫い合わせ、一着を組み立てているのは、この一本の糸にほかなりません。強度と滑りのバランスに優れたポリエステル糸が主流で、色数も豊富。表地の色に合わせて糸色を選ぶことは、仕上がりの美しさを左右する、地味ながら奥の深い工程です。この“最も基本の副資材”を念頭に置きながら、以下、各アイテムを見ていきましょう。
ジャケットの副資材

◆ 芯地(毛芯・接着芯)―― 一着の「骨格」をつくる
数ある副資材の中でも、まず筆頭に挙げたいのが「芯地(しんじ)」です。芯地の役割は、大きく二つ。ひとつは、洋服を美しく形づくり、その形をいつまでも保つ「成形性・保形性」。もうひとつは、生地を縫いやすくし、仕上がりを美しくする「可縫製性」です。表からは見えませんが、いわば一着の“骨格”をつくっているのが芯地なのです。
芯地は、大きく二種類に分けられます。ひとつは、生地に縫い合わせて用いる「フラシ芯」。毛芯地やシャツ芯などがこれにあたります。もうひとつが、熱によって表生地に貼り合わせる「接着芯地」です。
このうち、ジャケットの品格を語るうえで欠かせないのが「毛芯(けじん)」です。毛芯は主に、紳士服の前身頃に使われます。人間の身体は丸みを帯びた円柱形をしていますから、その立体に沿わせるため、毛芯は特に緯(よこ)方向に張りを持たせて設計されています。この張りとコシを生み出すのが、ゴートヘアー(山羊)、ヤクヘアー、キャメル、グレーウールといった、繊度の粗い獣毛です。
さらに、毛芯は一枚ものではありません。実際に使われる「加工毛芯」は、三つの芯地を重ねてつくられます。全体の土台となる「台芯(だいしん)」、胸の部分を補強する「胸増し芯(むねましじん)」、そして最も強い張りで肩を補強する「肩増し芯(かたましじん)」。この重なりが、胸から肩にかけての美しい立体を生み出しているのです。

一方の「接着芯」は、熱で表生地に貼るタイプで、軽く扱いやすいのが特長です。量産にも向くため、近年は接着芯を主体とした軽い仕立ても増えています。毛芯をしっかりと組み込む「フルキャンバス(毛芯仕立て)」、胸から上だけに毛芯を使う「ハーフキャンバス」、そして接着芯を主体とした仕立て——どれが良い・悪いということではなく、価格帯や求める着心地に応じて使い分けられている、と理解しておくと良いでしょう。

◆ 肩パッドと袖山の「いせ込み」―― 肩のシルエットを決める
ジャケットの印象を大きく左右する肩まわり。ここで働くのが「肩パッド」です。肩パッドの役割は三つ。襟元から肩、肩から袖へと続くラインを象徴する「保形」、動きによるダメージから守る「補強」、そして肩の上がり下がりを補う「体型補正」です。厚みは3mmから25mmほどまであり、スーツでは10mmや15mmが主流。カジュアルジャケットでは、3〜5mmの薄手を使い、肩の力を抜いた自然なラインに仕上げることも多くあります。
そして、肩パッドと並んで肩まわりの美しさを支えるのが、職人技である「いせ込み」です。これは、袖側の生地を少しだけ縮めながら身頃に縫い付けることで、肩から腕にかけての自然な丸みと、動きやすさを生み出す技術。既製・オーダーを問わず、仕立ての“効いている”ジャケットは、この袖山の表情が違います。


◆ 裏地 ―― 着心地と仕立てを、内側から支える
袖に腕を通したときの、あの滑らかな感触。あれを生んでいるのが「裏地」です。裏地の役割は、着脱をスムーズにする滑りの良さ、汗や摩擦から表地を守り型崩れを防ぐこと、内部の副資材を隠して美しく仕上げること、そして装いに高級感を添えること、と多岐にわたります。
仕立ての仕様としては、全体に裏地を付ける「総裏(そううら)」、背中の裏地を省く「背抜き(せぬき)」、そして裏地をほとんど付けない「大身返し(おおみがえし/単衣)」などがあります。総裏は保温性と上質感に優れ、背抜きや大身返しは通気性がよく、暑い季節でも軽やかに着られます。このように、裏地の入れ方を季節や着心地に合わせて選べるのです。

素材も見どころです。中でも人気なのが、キュプラ(ベンベルグ)。吸放湿性と滑りに優れ、肌当たりが良いのが特長です。ほかに、丈夫で扱いやすいポリエステル、しなやかなレーヨンやシルクなども使われます。当社でも、イタリープリントのキュプラ裏地をはじめ、豊富な裏地を取り揃えております。裏地は、こだわりが“わかる人にはわかる”、装いの隠れた見せどころです。

また、背中や胴まわりの「身頃裏」に対し、袖の内側に付く裏地は「袖裏(そでうら)」と呼ばれ、腕の抜き差しが最も多い部分だけに、とりわけ滑りの良さが重視されます。ストライプ柄の袖裏を覗かせるのも、粋な装いのひとつ。見えないところにこそ気を配る——裏地選びは、まさにその象徴といえるでしょう。

◆ 身返し・スレキ・ボタン ―― 細部を締める名脇役
前端の裏側を始末する「身返し(みかえし)」は、ボタンホールまわりの強度と見え方を左右する大切なパーツです。ポケットの内側で袋状になっている布は「スレキ(スレーキ)」と呼ばれ、ジャケットでは平織りのポリエステル・綿混や、ポリエステル100%のポンジーなどが使われます。丈夫さと滑りの良さが求められる部分です。

そして「ボタン」。前ボタンや袖ボタンはもちろん、その裏側で力を受け止める小さな「力ボタン(力釦)」も、実は縁の下の力持ち。素材はナット(植物の実)、水牛、ポリエステルなどさまざまで、ボタン一つで一着の表情はぐっと変わります。



ベスト(ジレ)の副資材
スリーピースの要となるベスト。実はベストは、前と後ろで使う素材が異なる、少しユニークな構造をしています。前身頃には表地を使い、後身頃には滑りの良い裏地素材(サテンなど)を用いるのが一般的です。これは、ジャケットの下で着たときの動きやすさと、コストの両面を考えた、理にかなった仕立てです。
前身頃には、形を保つための芯地が入ります。背中には「尾錠(びじょう/バックストラップ、アジャスター)」が付き、これを絞ることでウエストのサイズを微調整できます。さらに、前ボタン、玉縁(たまぶち)で仕上げるポケット、その内側のスレキ——ベストにも、こうした副資材がしっかりと組み込まれているのです。

小さなアイテムだけに一つひとつは目立ちませんが、前身頃の芯地が緩ければ胸元が波打ち、尾錠の位置が悪ければ着姿が決まりません。ベストは面積こそ小さいものの、副資材の良し悪しがそのまま見た目に表れる、ごまかしの効かないアイテムでもあるのです。

スラックスの副資材
最後は、副資材の“宝庫”ともいえるスラックスです。一見シンプルなスラックスですが、特に腰まわりには、表から見えない機能パーツが数多く仕込まれています。全体像を、まずは図でご覧ください。

◆ 腰まわりを支えるパーツ ―― 腰裏・前カン・ファスナー
ウエストの内側に付く「腰裏(こしうら)」は、腰まわりの仕立てを整える布です。シリコンやオペロンの「滑り止め」が付いたタイプなら、シャツのずり上がりを防ぎ、一日中すっきりとした着姿を保ってくれます。

そして、スラックスの合わせを表から見えずに留めているのが「前カン(マエカン/鉤ホック)」です。以前のブログでも“縁の下の力持ち”としてご紹介しましたが、大きく三タイプ。糸で縫い付ける「縫い付けタイプ(例:501K)」は、男カン(鉤)と女カン(受け)の2パーツから成ります。ペンチで爪を留める「打ち込みタイプ(例:551K)」は、表裏の受けを含む4パーツ構成。さらに、ウエストが約1.5cm伸びる「伸びる前カン」もあり、穿き心地の調整に一役買います。


前開きの開閉を担うのが「ファスナー」です。金属タイプや樹脂(コイル)タイプがあり、YKKに代表される信頼性の高いファスナーが使われます。ウエストまわりでは、ベルトを通す「ベルトループ」も忘れてはいけません。力のかかる部分なので、閂止め(かんぬきどめ)でしっかりと固定されます。

◆ 見えない補強と機能 ―― スレキ・天狗・尻当て
スラックスのスレキは、脇ポケット・ピスポケット(後ろ)・時計ポケットの袋布のほか、天狗裏や股シックなど、負荷のかかる部分に幅広く使われます。パンツ用にはツイル(綾織)のポリエステル・綿混がよく用いられ、機能性を重視してメッシュタイプが選ばれることもあります。

「天狗(てんぐ/持ち出し)」は、前開きの左側を延長した布で、前カンやボタンを留める“土台”となる部分です。また、後ろの座ったときに負荷がかかる部分を補強・保護するのが「尻当て」。さらに、裾の擦れを防ぐ「裾すべり(裾テープ)」など、スラックスは細部まで、実に多くの副資材で支えられているのです。
まとめ ―― 副資材は「縁の下の力持ち」
いかがでしたでしょうか。今回は、ジャケット・ベスト・スラックスに使われる代表的な副資材を、一挙にご紹介しました。芯地が骨格をつくり、肩パッドといせ込みが肩の表情を決め、裏地が着心地を支え、前カンやスレキが機能を守る——。一着のスーツの形も、着心地も、そして耐久性も、その大半は、表から見えないこれらの副資材によって決まっている、と言っても過言ではありません。
お客様に一着をご提案する際、こうした副資材の役割を一言添えられるだけで、説明の説得力も、商品の付加価値もぐっと高まります。「この芯地が胸の立体をつくっているんですよ」「この裏地は汗ばむ季節でも快適です」——そんな一言が、既製品にはない“あつらえの価値”を、お客様に実感していただくきっかけになります。ぜひ、この“大全”を折々に見返していただければ幸いです。
そして——本日ご紹介した副資材は、いずれも当社、そしてグループ会社オークラ商事が運営するアパレル資材のBtoBサイト「ApparelX」で、一通りお取り扱いがございます。会員登録は1分ほど、各商品ページからサンプルのご請求も可能です。ご注文やお問い合わせ、そのほか副資材や受託縫製に関するご相談も、どうぞお気軽に専用フォームよりお寄せくださいませ。皆様からのご用命を、心よりお待ちしております!!
全国展開のオーダースーツ店にて2年間修行後、服飾資材の道に。
特にスーツ(重衣料)の事ならお任せください。
