茹だるような暑さもようやく峠を越え、朝夕にはわずかながら秋の気配が感じられるようになってまいりましたが、皆様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
TAILORS WORLD編集部の山本佑です。
日頃より、当社の資材をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。今回は少し趣を変えまして、私どもが自信を持っておすすめする「道具」を一つ、じっくりとご紹介させていただきたいと思います。
今回ご紹介するのは、美鈴ハサミ株式会社の握り鋏、その名も「総火造り(そうひづくり)」です。裁縫や糸切りに欠かせないこの小さな一丁には、日本のものづくりの粋が、これでもかというほど詰まっているんです!! ハサミの歴史や、他にはない製法の工程を交えながら、その魅力にじっくりと迫ってまいります。
どうぞ、下記過去ブログも合わせてお読みいただければ幸いです。
握り鋏(和鋏)が歩んできた道のり
まずは、ハサミそのものの歴史を少しだけ紐解いてみましょう。ハサミの起源は意外なほど古く、紀元前10世紀頃の古代ギリシャで、羊毛を刈り取るために使われたのが最初とされています。その後、6世紀頃には中国にギリシャ型のハサミが伝わり、日本へは、その中国を通じて伝来したと考えられています。なんと、古墳からハサミが出土した例もあるというのですから、驚きですね!!
私たちが「握り鋏」「糸切りばさみ」と呼んでいる、あのU字型のハサミは、正確には「和鋏(わばさみ)」と呼ばれます。二枚の刃を鋲(びょう)で留めてX字型に開閉する「洋鋏」に対し、和鋏はU字型の中間部分がバネの役割を果たす、実にシンプルで美しい構造をしています。江戸時代までは、日常生活で使われるハサミといえば、この握り鋏が一般的だったそうです。現在では糸切りや飴細工など用途こそ限られてきましたが、指先の延長のように扱えるこの道具は、今なお和裁・洋裁の現場で静かに愛され続けているんです。
「総火造り」 ~型を使わず、炎で鍛え上げる~
さて、ここからが本題です。今回ご紹介する美鈴の握り鋏の最大の特徴、それが「総火造り(そうひづくり)」という製法です。
実は、現在日本で作られている握り鋏の多くは、あらかじめ鉄と鋼(はがね)が貼り合わされた「複合鋼材」を使って作られています。効率よく、安定した品質のものを作れるためです。
一方の「総火造り」は、この複合鋼材を一切使いません。職人が、鉄と鋼を約1,000度の炎で熱し、金槌で叩きながら接合し、同時に厚みや形状までも、すべて手作業で仕上げていきます。鉄と鋼という異なる金属を、火と槌の力だけで一本の刃物へと鍛え上げる¯¯この、鉄と鋼の接合から成形までを一貫して行う製法こそが、「総火造り」なのです。
正直に申し上げれば、これは大変に手間のかかる、そして失敗も多い製法です。効率だけを考えれば、決して割の良い作り方ではありません。しかし、だからこそ職人は、バネの強さ、握りの加減、刃のバランスといった細部の一つひとつにまで、自らの手で調整を効かせることができます。総火造りならではの、無駄のない造形美と、しなやかで鋭い切れ味は、まさにこの一手間の賜物なのですね。

刃に選ばれた「安来鋼 白紙一号」
道具の良し悪しは、素材で決まると言っても過言ではありません。美鈴の総火造り握り鋏の刃部には、高級刃物鋼として名高い「安来鋼(やすきはがね)白紙一号」が用いられています。
安来鋼は、島根県安来市周辺で古くから盛んだった「たたら製鉄」の伝統を受け継ぐ、日立金属安来工場製の鋼のブランドです。かつて、この地で作られた鋼の積出港が安来であったことに、その名は由来します。中でも「白紙」は、余計な合金成分や不純物を極力抑えた、純度の高い炭素鋼。混じり気が少ないぶん、鍛冶職人の技量がそのまま刃物の出来栄えに表れる、いわば“ごまかしの効かない”鋼なんです。裏を返せば、確かな腕を持つ職人が鍛えてこそ、その真価を発揮する素材だと言えるでしょう。表面は、美しい「ミガキ仕上げ」。手に取れば、その凛とした佇まいに、思わず背筋が伸びるはずです。
当社おすすめの一丁「美鈴 総火造 105mm」
さて、そんな総火造りの技が息づく逸品として、当社がお取り扱いしておりますのが、こちらの「美鈴 総火造 105mm」です。数ある握り鋏の中でも、この105mmの短刃タイプは、糸切りをはじめとする細かな手元の作業に、まさにうってつけのサイズ感なんです。

刃部にはもちろん、先ほどご紹介した安来鋼白紙一号を使用し、表面はミガキ仕上げ。混じり気のない鋼を、総火造りの技で丹念に鍛え上げているからこそ、糸をスッと切り落とす、あの気持ちの良い切れ味が生まれます。手にすっと馴染むバネの塩梅や、握ったときの絶妙な加減も、一本一本を職人が手作業で仕上げているからこその味わいです。もちろん、正真正銘の日本製。裁縫箱の中に一丁忍ばせておくだけで、日々の手仕事が、ぐっと心地よいものになるはずです。
なお、白紙鋼をはじめとする炭素鋼は、切れ味に優れる反面、湿気には少々デリケートです。長く良い状態でお使いいただくためにも、ご使用後は水気を拭き取り、時折、椿油などを薄く塗って保管されることをおすすめいたします。手をかけただけ、道具はきっと応えてくれますよ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、美鈴ハサミの「総火造り」握り鋏、その中でも当社お取り扱いの「美鈴 総火造 105mm」をご紹介いたしました。
たった一丁の握り鋏の中に、紀元前から連なるハサミの歴史、和鋏という日本独自の道具の文化、そして炎と槌だけで鋼を鍛え上げる職人の技¯¯そのすべてが凝縮されています。機械で大量に、均一に作ることが当たり前になった時代にあって、あえて手間を惜しまず、一本一本を人の手で鍛え続ける。その姿勢こそが、世界に誇る日本のものづくりの真髄なのだと、私たちは考えています。
道具は、使い手とともに育っていくものです。少し値の張る一丁かもしれませんが、生涯付き合える相棒として、ぜひ一度、その切れ味を手に取って確かめていただければ幸いです。ご注文やお問い合わせ、そのほか附属や縫製サービスに関するご相談も、どうぞお気軽にお寄せくださいませ。皆様からのご用命を、心よりお待ちしております!!
また、上記内容についてのご注文やお問い合わせ、そのほか附属や縫製サービスのお問い合わせはこちらまでお願い致します。
全国展開のオーダースーツ店にて2年間修行後、服飾資材の道に。
特にスーツ(重衣料)の事ならお任せください。
